旭光学 SMC Takumar 35mm F3.5 (M42)の修理

2017年11月頃、京都「第一写真店」にてジャンク品を購入。レンズは非常に綺麗だが、絞り羽根の動きが遅く、自動絞りでは使用できない。

初期症状:

目次:

全体の清掃とヘリコイドグリスの交換で問題なく動作するようになった。


試写:


(2018/6/30)
初稿


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分解

定石通り(A)社名リングをゴムアダプタで回して外す。

このリングは非常に固く、CRCを付けてしばらく置いても駄目だった。

別の方法として、エタノールを垂らしてみる。接着や緩みドメされている場合に有効らしい。リングのネジ山がある矢印の溝に垂らす。



エタノールを垂らしてから、フィルター枠やリングをコンコンとハンマーで軽く叩き、浸透を促す。

ハンマーはダイソーで購入した、腕時計のベルト交換用ピン打ちハンマー。叩く部分がプラスチックなので、レンズに傷ができない。



すると社名リングが回り、外せた。

次にフィルター枠を外す。ネジx3で外れる。緩みドメが塗られているので、エタノールで溶かす。



フィルター枠を外した。ヘリコイドグリスが漏れ出してベタベタになっていた。ここからは内部がグリスまみれなので、エタノールで拭き取りながら分解を進める。



前玉が出っ張っていて危険なので、先に前群ユニットを内ヘリコイドから分離したい。

矢印の黒いリングを回せばよいが、丸印のカニ目は溝の奥底にある。溝は約2.5mm幅で、9mmの深さ。しかもカニ目の切欠きは筒の内側なので、ペンチを改造したタイプのカニ目レンチでは届かない。



このような場合のため、金具とボルトを組み合わせたカニ目レンチを作成した。

(A)の金具は八幡ネジの「ミニ金具・大」という不思議な名前のもの。ステー金具の一種のようだ。(B)はM5六角ボルト、(C)は蝶ナット。(B)ボルトの先をミニルーターで細く削ってビットとした。(C)蝶ナットで幅の調整をしやすくしている。大抵のカニ目はこの治具で回せる。ただし狭い幅には対応できない。



前群レンズを外した。



絞り羽根が露出しているので、前側から重なりを記録しておく。この時点では羽根に油染みは見当たらない。



分解を続ける。

距離リングを無限位置から少し右に回すと、距離リングと中ヘリコイドを固定するネジx3が見える。



ネジを外す前に、中ヘリコイドと距離リングの位置関係をケガいておく。

写真の例はネジに近すぎた。無限位置では、内ヘリコイドのネジ穴の出っ張り(フィルター枠固定用)が邪魔で見えにくくなる。そのため、もう少しネジから離れた位置でケガいたほうが良い。



準備ができたらネジを外して距離リングを外す。ワッシャー注意。



(1)内ヘリコイド、(2)中ヘリコイド、(3)外ヘリコイド。

(2)を少し左周りに戻しておおよそ無限位置にする。その位置で(1)(2)(3)をケガく。写真のケガキは前修理者によるもの。



DOFリングを外す。サイドのイモネジx3を緩める。



外した。



絞りリングをそのまま前側に引き抜いて外す。丸印のあたりにクリック用鋼球があるので紛失注意。



外した。鋼球を回収しておく。



レンズ側の(A)は絞り操作ピン。C方向で絞り込み、O方向で絞りを開ける。

絞りリング側の(B)は(A)とリンクする。(C)は鋼球のクリック用。



マウント部を分離する。サイドのネジx3で外れる。



外した。



ヘリコイドの分解清掃

レンズ後ろ側の直進キーx2を外す。各ネジx2で外れる。緩みドメが塗ってあるのでエタノールで溶かす。



外した。



(3)外ヘリコイドに対し、(2)中ヘリコイドを左に回して締め込む。(1)内ヘリコイドは動かないようにする。

無限位置から(2)が止まるまでの回転数を記録する。この場合はちょうど1回転で止まった。

次に(2)を右に回して(3)から分離する。



分離した。



(1)内ヘリコイドを右に回して締め込む。無限位置から止まるまでの回転数を記録する。この場合は半回転もしないうちに止まった。

止まった位置で、(2)の無限ケガキに合わせ、(1)に終端位置を示す2本線のケガキをする。

次に(1)をゆっくり左に回して抜いていく。



(1)が外れた瞬間、(2)の無限ケガキに合わせ、(1)に外れ位置を示すV字ケガキをする。



ヘリコイドがすべて分離した。ベンジンで古いグリスを落とす。スポンジや歯ブラシが使いやすい。

絞りの分解が必要ないならこのまま新しいグリスを塗って組み立てる。今回はシリコングリス+シリコンオイルで粘度調整したものを使用した。



絞り機構の分解清掃

絞りの動きを確認しておく。(A)絞り操作円盤が回転することで絞りを開閉する。O方向で開、C方向で閉。

(B)は(A)の制限ピン。(A)がO方向に回転すると、(B)が(Aa)に当たる。C方向に回転すると(B)が(Ab)に当たる。

(B)は偏心しており、位置調整できるようになっている。これは最小絞り時の開口部サイズの調整のため。(B)の調整は後ろ側のカニ目で行える(後述)。



絞りの分解を始める。絞り操作ピンを外す。ネジx2で外れる。



外した。

絞り操作円盤の押さえリングを外す。少しだけ接着されているので、エタノールで緩めてから外す。



外した。組立時、このリングは締め込みすぎると絞り操作円盤が動かなくなるので注意。絞りが軽く動く適当なところまで締め、緩みドメを2点に軽く塗って固定する。

矢印の絞り操作円盤を慎重に持ち上げて外す。まっすぐ上に持ち上げる。絞り操作ピンが固定されていたポールを掴んだり、筒の内側化を逆作用ピンセットで掴むと持ち上げやすい。



羽根が露出した。羽根に油はなかったが、絞り操作円盤の周囲に油がついていた。こちらが原因だろう。念のため、羽根もベンジンで洗浄する。

羽根を組み立てる際は、どこからでも良いので右回りで置いていき、最後の1枚は最初に置いた1枚の下に潜り込ませる。その上に円盤を乗せ、羽根を突きながら円盤の穴に羽根の前側ピンをはめる。この羽根は後ろ側ピンが台座の穴にしっかりはまるため、羽根をつついても外れることがなく、組み立てが簡単だった。



羽根を外すと、その下の台座にも汚れがあった。台座も外して洗浄したい。



後ろ側のカバーを手で掴んで回して外す。



外した。

台座はネジx3で外れる。緩みドメがあるのでエタノールで溶かす。

矢印のカニ目は前述の絞り操作円盤の制限ピンを固定するもの。ここを緩めると制限ピンの位置調整ができる。



絞り羽根台座を外した。全体を洗浄して組み立てれば完了。

組み立てると羽根がすばやく開閉し、自動絞りで使用できるようになった。

無限遠の調整は『共通の修理方法 - レンズの無限遠調整』を参照。