Canon 100mm F3.5 II (M39, L Mount) の修理(失敗)

遺品。中玉が真っ白に曇っており、お蔵入りしていたレンズ。

マウントには正式名称がない。ここではネットでよく使われている「M39」を採用した。日本では通称「ライカLマウント」。

初期症状

目次

修理の結果は失敗に終わった。白濁が除去できないばかりか、研磨のやりすぎで全体がぼんやりとしか写らなくなってしまった。研磨前は真っ白な中にもクッキリとした像を結んでいたので、非常に残念。全く使えないレベルではないので、自戒を込めて撮影に使用しようと思う。

なお、問題の中玉と後玉を取り除くと固定焦点の接写レンズになる。これでこのレンズを活かすのもいいかもしれない。

試写

α7III + SHOTEN LM-SE (M)


(2019/7/13)
初稿


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分解とヘリコイドグリス交換

距離環と絞り環を掴んで回せば鏡胴とヘリコイドに分離する。



分離した。



距離環を外す。ネジx6。



外した。



ここでヘリコイド側のフォーカス調整機構を確認しておく。

丸印のセットネジx3を緩めると、矢印の鏡胴取付部品が回転するようになる。すると鏡胴取付部品が前後に動き、フォーカス調整ができる。この個体は無限遠が合っているので調整しない。



ヘリコイドの機構を確認しておく。単純な回転ヘリコイド方式。写真は無限遠。1:内ヘリコイド。2:外ヘリコイド。

無限側制限は、3:制限金具が4に当たって制限となっている。

5は距離計伝達部品。ここが前後してカメラの距離計にフォーカス位置を伝達する。5は6でバネによって前側に引っ張られている。

1は筒の後ろ側が斜めに切られており、5はこの斜面1aに沿って移動する。この斜面で50mmレンズとの前後移動差を吸収している。




最短状態。3:制限金具が7に当たって近距離側制限となっている。



分解を続ける。被写界深度環を外す。セットネジx3を外すと前側に抜ける。



外した。



制限を兼ねている距離計伝達部品を外すが、その前に無限遠で1:内ヘリコイド、2:外ヘリコイドの位置関係を罫書いておく。準備ができたらネジx2を外す。無限遠では部品のバネが伸びていて力がかかっているので、近距離の方が外しやすい。



外した。



ヘリコイドを分離する前に終端位置を記録する。1を右回りに締め込むとすぐに止まった。止まった位置で1の無限罫書きに合わせて2を2本線で罫書く。



次に1をゆっくり左に回して抜いていく。外れ位置を記録するため、外れた瞬間の位置で、2の無限罫書きに合わせ、1をV字で罫書く。



ヘリコイドを分離した。



ネジx3を外すと、2:外ヘリコイドと8:マウント環が分離する。



外した。



古いグリスをベンジンで除去し、新しいグリスを塗る。内ヘリコイドの斜めに切られた筒の後端と、距離計伝達部品のコロの当たる部分も忘れずに。ジャパンホビーツールの#10を使用した。



絞り羽根の清掃

ネジx3を外して絞り値環を外す。前側に抜ける。



前群を掴んで回し、外す。



前群に絞り指標も一緒に外れた。指標位置に調整要素はないようだ。



更にレンズの後ろ側を掴んで回すと前群AとBが分離する。



清掃する。



鏡胴の後ろ側、後群も掴んで回すと外れる。



白濁したレンズが見えた。更に外側のカニ目を回すと問題のレンズが外れる。



押さえリングを外すとレンズを単体で取り出せる。白濁の対処は後述。



絞り羽根を確認しておく。写真は前側。15枚で左回りに置いていくタイプ。最小絞りの開口の大きさを記録しておく。マイスドライバーをあてがって、近い大きさのドライバーで記録しておくと良い。



後ろ側からも確認しておく。



絞り機構を分解したいところだが、丸印のセットネジのスリ割が完全に潰れていた。恐らくこれを緩めれば、10:絞り操作環を固定している9:固定環を外せるものと思われる。

なんとかカッターの刃の先端をネジ穴に入れ、スリ割りを掘った。ドライバーを押し付けながらゆっくり回すとセットネジが緩んだ。

9を右に回すと、少しだけ回ってから10に当たって止まった。10がスムーズに回転するちょうどよい位置で9が固定されているようだ。

9を左に回して外す。



10:絞り操作環を外す。



絞り操作環を外すと内側にグリスが塗られていた。ここから羽根に油が漏れ出したらしい。この部分は羽根に近すぎるので、グリスを除去するのみで再塗布はやめておく。

11は絞り伝達ピン。鏡胴に開いた溝に沿って動くことで絞りを開閉する。写真は開放位置。絞り羽根を分解するため、この位置で11を外す。

更に12:セットネジx3を外す。これは絞り羽根が乗る台である絞り羽根台座を固定するためのもの。普通のレンズではこの羽根台座を外す必要はない。しかしこのレンズでは、羽根台座にある、羽根のピンを固定する穴が鏡胴後ろ側から見えない。見えていない状態では羽根の組み立てが難しくなるため、今回は羽根台座も外すことにした。後から絞りの大きさ調整が必要になるため、事前に最小絞りの大きさを必ず記録しておく。

ここで絞りのクリック機構を探したが、そのような仕組みは見当たらない。元々クリック感が無い仕様のようだ。



矢印のCリングを外すと13:絞り羽根操作環(以下、羽根操作環、操作環、などと略す)を外せるようになる。



羽根操作環にゴムアダプタをあて、ひっくり返すと羽根操作環、絞り羽根台座ごと羽根が分離するはず。



しかし筒の内側とリング擦れてうまく外れない。裏側から絞り羽根台座を竹串の裏などで押し、鏡胴を上に少しずつ引き上げて外す。



外れた。矢印の絞り羽根台座を外す。



羽根が露出した。



羽根を分離した。すべて同じ形。ベンジンで油を拭き取る。油は少なく、分解洗浄するほどではなかったようだ。



羽根を組み立てる。まず1枚目を操作環の上に置く。下側のピンは操作環の溝にはめる。羽根は外側ギリギリに置くこと。普通に置いてしまうと10枚目以降が置けなくなる。



左回りに2枚目を外側に置く。このまま同じように6枚目までは外側に置き、7〜9枚目は普通の位置に置く。10〜15枚目は、外側に置いた1〜6枚目の内側にうまく置いていく。



全て置いたら、1枚目を15枚目の上に移動する。ピンセットでピンをつまみ、持ち上げて移動するのが良いだろう。手元が少しでも狂うと羽根が落ちたり、溝からピンが外れたりする。その場合は最初からやり直し。羽根の枚数が多いため非常に難しく、この組み立てだけで1時間近くかかってしまった。



無事、全ての羽根が置けたら、羽根台座の穴に合うよう、羽根の形を微調整する。完全に一致しなくても、だいたい合った状態で台座をかぶせ、左右交互に少しずつ台座を回すと穴にピンがはまっていく。



鏡胴をかぶせる。A:羽根操作環のピンを取り付けるネジ穴と、B鏡胴の絞り開放位置を合わせること。

かぶせたら羽根台座をセットネジで固定し、ひっくり返してCリングを取り付ける。操作環を動かして羽根の動きに問題がなければ、あとは逆順に組み立てれば完了。

ここで最小絞りの大きさが分解前と違っていたので調整した。調整は、羽根台座のセットネジを緩めて回せばよいようだ。しかし羽根台座には引っかかりがないので回すのは難しい。いい方法が思いつかなかったので、とりあえずセットネジを緩めたまま絞りを何度か開閉し、羽根台座がつられて少し回るのを利用してうまく調整した。



白濁レンズの研磨

中玉が真っ白に曇っており、濃い霧がかかったような写真しか撮れない。ルーペでレンズを見ると、両面とも表面が微小な凸凹で覆われている。

重症なので、酸化セリウムで研磨する。

※この研磨は失敗し、取り返しがつかないことになっている。決して真似をしないでほしい。



押さえリングを外したが、レンズが枠にはまり込んで外れない。反対側から押してもびくともしない。レンズはF:前側が平面、B:後ろ側(押さえリング側)が凹。



いろいろ試したが、レンズが外れる方向を下にして、枠ごとオーブントースターに入れて250度くらいまで熱すると、枠の金属が膨張してレンズが外れ、下に落ちた。



組み立ての際は先ほどとは上下逆でオーブントースターに置き、同様に熱すると枠の中にレンズが落ち込んだ。



1:レンズを研磨する。

レンズはそのままでは固定しにくいので、百均のダイソーで売っていた2:「おゆプラ」というプラスチック粘土素材で型を取ってその中にはめ込んだ。「おゆプラ」は熱すると柔らかくなり、冷めると固まる造形材。

研磨には時間がかかるため、3:電動ドライバーを使用した。4:ミニルーター用のディスクペーパービットをくわえ、先端にレンズの研磨面を型取りしたもう一つの5:「おゆプラ」を両面テープで貼り付けた。

研磨剤は6:酸化セリウムを少量の水で溶いて泥状にしたもの。

これで5に酸化セリウムをつけてレンズを研磨する。同じ場所を連続して削らないよう、押し付けずに研磨位置をゆっくり動かし続け、全体を均一に研磨する。



5分毎に様子を見ながら、平面側は50分、凹面側は15分ほど研磨したが、光に透かすとまだまだ白っぽく、表面は凸凹している。試しに組み立てて試写したところ、少し霧が薄くなった。ここで写真をよく見ると、研磨前より更に全体がソフトで、解像していないことに気づいた。どうやら既に研磨しすぎていたようだ。

霧がかかった上にぼんやりとしか写らない、どうしようもないレンズにしてしまった。途中、20分程度研磨して仮組みし、試写した写真では、真っ白のままだったものの解像力の低下はなかった。研磨時間はそのくらいが限度か。

結局の所、重症の白濁は酸化セリウムでは対応できないのだろう。


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