Minolta HI-MATIC Fの修理


大阪の「鈴木特殊カメラ」にて購入。一見して錆が多く、状態が悪かったが、電子制御カメラを分解してみたかったので購入した。

初期症状:

電池がないとシャッターが切れないカメラらしいので、とりあえず電圧をかけたところ、通電チェックランプは点灯した。しかし症状に変化はなく、レリーズも巻き上げもできない。

セルフレバーが中途半端な位置にあるので、セルフタイマーの動作中に機能不全に陥ったものと予想する。セルフはチャージできるが、動かすとしばらくジジジという音とともに移動し、同じ位置でスタックする。

目次:

結果は修理できたが、部品の一部を破損してしまったのが残念。シャッターやヘリコイドの分解などはしておらず、作業は短時間で終わった。


試写:

(blogの試写)


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ボトムカバー


巻き上げに問題があるので、とりあえず底蓋を外してみる。丸のネジ2つで外れる。



外すと3つの矢印の部品が外れるので保管しておく。



記号が多くて見づらいが、巻き上げ不全の原因は簡単。巻き上げると②が矢印方向に回転しようとするが、すぐ①ストッパーに当たって回らない。①は常に反時計回りに力がかかっており、このストップが外れるには、⑥が反時計回りに回って点線矢印で①の反対側を押し、時計回りに回転させる必要がある。しかし⑥は上の黒い部品(5A)に当たって回らない。仮に(5A)が左に移動すれば⑥が動き、①ストッパーが外れ、巻き上げできるようになるだろう。恐らく現状はチャージ状態で巻き上げを阻害していると思われる。なんとかレリーズする必要がある。

その他の底部の仕組みを説明しておく。仮に①ストッパーが矢印方向に逃げて外れているものとすると、②が矢印方向に回転し、同時に太いバネ(2A)も回転する。(2A)が(3A)に当たって押し、(3A)はプレート③に固定されているが、同じプレート③上にある(3B)も移動し、バネ(3C)が伸びる。(3B)はレンズボード内のメカニズムと接続している回転部品④を押す。

また③上の(3D)も移動して(5A)を押す。(5A)はプレート⑤に固定されており、同じプレート⑤上の(5B)も移動してバネ(5C)をチャージする。プレート⑤はレンズボード内でストッパーにかかり、チャージ状態で止まる。

レリーズすると⑤のストップが外れてバネ(5C)の力で⑤全体が左に戻る。すると⑥の右端を阻害していた(5A)も左に移動するので、既に説明したとおり巻き上げストッパー①が外れて巻き上げできるようになる。

以上が底部の仕組み。なお、通電チェックは(-)と(+)に電圧2.7Vくらいをかければ良い。

また、レンズボードを外してから本体に取り付ける際は、レンズ側(5A)と本体側⑥の位置関係を確認すること。



トップカバー

とりあえずトップカバーを外す。定石通り巻き上げレバーを押さえているカニ目ネジを外す。



ここでミス。カニ目ネジを1/4回転ほど回したところで、突然ネジが跳ね上がった。特に力をかけたわけではないのだが、ネジを千切ってしまったらしい。丸印は裏側。ネジ部分が根本から無くなっている。

ネジ穴の奥にネジがはまり込んでいるので、やむなくピンバイスで上部から破壊していくと、少し壊すだけで後は普通に回転させて抜くことができた。ねじ切ったときには逆ネジかと思ったが、正ネジだった。

カニ目の裏側をよく見ると「7」の刻印がある。もしやと思ってHI-MATIC 7の巻き上げレバーのカニ目ネジと比べてみると、同じものらしい。部品を共通化しているのだろうか。流用すればよさそうなので、先へ進む。

とりあえず矢印の板バネと巻き上げレバーを外しておく。板バネは表裏があるので注意。中央が下がり、外周が上がっている。



レバーの下の金具を外す。この金具はレバーの裏側と噛み合う。



定石通り巻き戻しレバーを外す。フィルム室の巻き戻し軸を割り箸などで固定し、巻き戻しクランクを反時計回りに回せば外れる。



クランクの下にあるネジを外す。



背面のネジと。



側面のネジを外す。



シューカバーを赤矢印方向にスライドさせて外すが、赤丸の辺りが引っかかって外しにくい。緑矢印の金具の間にマイナスドライバーを入れて天井方向に持ち上げると引っかかりが外れやすい。




ネジ4つ外すとシューの台座が外れる。



台座にはビニル線がハンダ付けされているが、この線はトップカバーとしか繋がっていないのでハンダを外す必要はない。

これでトップカバーが外せる。



可能ならレリーズボタンを掴みながらトップカバーを外す。掴まない場合はボタンが落ちるので回収しておく。写真矢印がボタン。

カバーの赤丸はビニル線の終端位置で、これは本体側赤丸の接点とショートする。

ファインダーには黒いカバーがあるが、これを固定するネジの1つ(緑丸)がない。以前の分解者が無くしたのだろう。



レンズボードの分離

定石通り前面の革を一部剥がす。接着剤をエタノールで溶かしながら、プラや木製のヘラで少しずつ剥がす。

現れたネジ4つを外せばレンズボードが本体から外れる。



底部にビニル線の接続があるので、矢印3つのハンダを外しておく。

ボトムカバー」で示したレンズボードと本体の部品の位置関係にも注意。



トップカバーにも接続がある。赤矢印のビニル線4本(黄x2、白、黒)。及び赤丸の棒。棒は距離計の伝達用で、固定されておらずそのまま抜け落ちるので注意。

ビニル線は上の銀色のカバーの中にあるので、緑丸のネジ2つ外してカバーを外す。

しかし①のネジは固くて外れず、②のネジは緩すぎて空回りしている。②はそのまま外し、①はCRCをつけて15分ほど置いてから外した。ネジを見てみると、①は長くて太いネジ。②は短くて細いネジだった。しかしネジ穴は逆で、①は細く、②は太い。試しにネジを入れ替えてみるとうまく嵌った。以前の分解者が逆にしてしまったらしい。このカメラはかなりいい加減な分解をされているようだ。自分も既に部品を破損しているので、人のことは言えないが。

なお、上側青矢印(カバー側部品)と、下側青矢印(本体側部品)がリンクしているので確認しておく。



カバーを外せば、黄Aと白はそのままハンダを外せる。黄色はマーキングしておくこと。

黄Bと黒は水色矢印のネジで固定された接点にハンダ付けされており、ネジを外して接点を外せばよい。



まずは黄Bがハンダ付けされた接点が外れる。その下に黒いプラスペーサーがあるので回収しておく。



スペーサー。上下の接点の絶縁用と思われる。



その下に黒がハンダ付けされた接点があるが、この接点の左側に電池から来ている黒がハンダ付けされている。電池黒は線の長さに余裕がなく、引き出せない。



一旦レンズボードを写真のようにひっくり返し、電池室のハンダ付け部分を露出させ、矢印のハンダ付けを外す。

この黒線は本体にボンドで固定されているので、丁寧に剥がす。



外したら接点を引っ張って電池黒のビニル線を矢印方向に引き抜けばよい。これでレンズボードが本体から分離する。



本体とレンズボードのリンクを確認しておく。丸印は距離伝達棒の入る穴。シンクロのリンクは、組み立ての際は矢印方向に移動しておく必要がある。



レンズボード側のシンクロと距離系伝達のリンク(緑矢印)を確認する。

次にレンズボードから電子基板を外す。赤丸のネジ4つと、水色丸のEリング2つで外れる。ネジはシンクロリンクを固定しているものだけ大きい。

ピンク矢印の穴からは小さな金具が少しだけ出ている。後で分かるのだが、これが故障の原因だった。



レリーズ機構

基板を外したところ。



レリーズ機構。レリーズボタンが乗るレリーズプレートを赤矢印方向に押し下げればシャッターが切れるはずだが、黄矢印で鳥の頭のような部品が溝に落ち込んで引っかかっており、プレートが動かない。

仮に鳥頭を左に動かすと、突然セルフタイマーが動き出した。タイマーの動きと同時にレリーズプレートが自動的に下に下がっていき、シャッターが切れた。

ここで基板を仮付けしてから赤丸のピンを左に動かしてチャージし、試しにレリーズプレートを押してみたが、写真と同じ状態になって鳥頭が溝に落ち込み、レリーズできない。電池がないとシャッターが切れないカメラなので、電池からのビニル線に電圧をかけてみたが、結果は同じ。

しかし、電磁石の2つの線に直接電圧をかけたところ、レリーズすることができた。電磁石は正常だが、どこかで電流が途切れているらしい。



電磁石のスイッチは基板側の金色の筒。

レリーズプレートのピン①が基板の穴②にリンクし、レリーズプレートを押し下げると②が矢印方向に移動し、白いプラのプレートが金色の筒から出てくる。このプレートがスライドスイッチになっている。



スイッチ周辺をよく見ると、基板の裏側でスライドスイッチの接点が穴から飛び出していた。スイッチを上方向にスライドさせ、接点を穴に押し込んだ。

そして電池室からのビニル線に電圧をかけ、チャージすると、無事レリーズすることができた。電磁石のスイッチ接点が、何かの拍子に基板から外れたのが故障の原因だった。



レリーズ機構の仕組みを見ておく。写真はレリーズ状態。まずはここからチャージする。

チャージするにはプレート①上のピン(1A)を左に押す。すると同じ①上のピン(1B)が動いて回転部品の端(2A)を押す。(2A)が時計回りに回転すると反対側の(2B)も同様に回転し、回転部品③のピン(3A)を押す。すると③は反時計回りに回る。

回転部品④は常に時計回りの力がかかっているが、最初は③が妨害して回転できない。しかし③が回転するにつれ、④が③に当たる位置が凹んだ③’になり、その分④が回転することができるようになる。

④には⑤が接続されており、④の回転とともに⑤も時計回りに回転し、電磁石と密着する。

レリーズプレート⑥は、レリーズ状態では⑦が妨害して押し下げられないようになっている。①を左に動かしてチャージすると、一緒に⑦も左に移動する(「ボトムカバー」参照)。するとレリーズプレート⑥が押せるようになる。

⑧には常に写真上方向に力がかかっているが、レリーズ状態では(7A)に妨害されて動かない。⑦が左に移動すると(7A)が逃げて⑧が動く。すると(7A)が(8A)に引っかかってストップする。これでチャージ完了となる。



写真はチャージ状態。ここからレリーズの最初の動きを説明する。最初にレリーズプレート⑥が下に押し下げられると、ピン(6A)が⑧を押して下に動かす。すると⑧で止められていた(7A)のストップが外れ、バネの力でプレート⑦全体が右に動いてレリーズ開始。

鳥状部品⑨は常に右方向の力がかかっている。このままだと、⑥が押し下げされた際、鳥のクチバシ(9A)が窪み(6B)にはまり込み、レリーズプレートが下がらない。

これを阻止するには⑨の動きを止める必要があるが、それには⑨と回転軸(9_10X)で連動する⑩の動きを止めれば、間接的に⑨も止まる。⑩の左端(10A)は回転部品④のピン(4A)を挟んでいる。⑩を止めるには、④が回転しなければよい。それには、④と接続されている⑤が止まっていればよい。

レリーズプレート⑥が押し下げされると、ピン(6C)が電磁石のスライドスイッチを動かし、電磁石に電圧がかかる。すると⑤は磁力で電磁石に吸い付けられ、動かなくなる。これにより、間接的に鳥状部品⑨の動きを止め、レリーズプレート⑥を押し下げられるようになる。

つまり鳥状部品⑨は、電池がない時にレリーズボタンを押せないようにする役割になっている。

この機構では、電池がない状態でセルフタイマーを動かしてしまった時に問題が発生しそうだ。セルフタイマーが動くと、自動的にレリーズブレート⑥を下に押し下げる力がかかるため、(9A)が(6B)に嵌まり込んだ状態でスタックしてしまう。しかしセルフをチャージすれば⑥を押し下げる力が解除されるので、スタックした時は電池を入れてから再度セルフをチャージし、セルフをスタートさせればレリーズできる。



レリーズの続き。

③は常に時計回り方向に回転する力がかかっているが、チャージでは(3C)が(8B)に当たって回転しない。レリーズプレートが押されて⑧が移動すると、反対側の(8B)が移動してストッパーが外れ、③が回転を始める。

しかし(3D)が(4B)と当たっており、そのまま(3X)を軸としては回転しない。③はプレート⑪を介して軸(4X)とも接続されており、これを中心に③全体が軸(3X)ごと回転する。

(3X)が移動すると絞り兼用のシャッター羽根が開き、露光が開始する。

既に説明したが、④が動かないのは、④に接続されている⑤が電磁石で吸い付けられ、固定されているため。電磁石の効力はCdSに入射する光量に応じた時間で切れる。すると④と⑤が反時計回りに回転するので、(4B)も同様に回転して上方向に移動する。するとそこを支点に押し下げられていた③が写真の位置に戻り、シャッター羽根が閉じ、露光が終了する。

③全体が移動してシャッター羽根が開く際、(3B)がハーフギア⑫を押して回転させる。⑫はギアを介してガンギ車、アンクルにつながっている。これはスローガバナーによくある構造で、③の移動をギア群の抵抗で遅らせ、シャッター羽根が開くタイミングを遅らせている。なぜこの機構が必要なのかは分からない。



直接、電磁石に電圧をかけ、シャッターが開いた状態で固定した。③全体が下方向に移動しているのが分かるだろう。



組立時の注意

組み立てのリンクは既に説明したとおりで、難しい部分はない。

気をつけるとすれば写真の赤丸同士。本体側はプレートを右端まで移動しておく必要があるが、黄色矢印のバネのせいで、プレートは常に左端に位置している。



組立時は一時的に黄色矢印のバネを外しておくとよい。



底部の調整

シャッターを切れるようになったが、レリーズ後にすぐ巻き上げしようとすると、巻き上げレバーが動かないことに気づいた。1秒後くらいには巻き上げられる。

底部を開けて巻き上げ、レリーズすると、すぐに原因がわかった。レリーズが完了すると①が回転して丸印の部分で②を押し、②が回転して巻き上げストッパーが外れるのだが、①と②が1秒位かけてゆっくりと回転するのが見えた。

とりあえず①と②を外して部品全体をエタノールで拭き、①と②が当たる場所にラウナ#40の5%希釈液を塗った。するとレリーズ後、一瞬で①と②が回転し、すぐに巻き上げできるようになった。



巻き上げレバー押さえネジの作成

ねじ切ってしまった巻き上げレバーを押さえるカニ目ネジを作成する。HI-MATIC7から流用してもいいのだが、簡単そうなので作ることにした。誰の参考にもならないだろうが、備忘録として残しておく。

まずは適当な厚さのアルミ板にオリジナルと同じ大きさ(12.7mm)の円を書き、中心にネジを通す穴を開け、少し大きめで荒く切り出す。切り出すにはミニルーターの切断砥石とハイスビットを使った。

アルミ板の厚みは1mmあれば十分だが、今回は皿ネジを使うので1.5mm厚を使った。ネジはM2.3で、ホームセンターなどでは売っていないだろう。大阪なら日本橋の「ナニワネジ」で手に入る。




中心の穴にネジを通し、ナットで固定。それをドリルチャックでくわえて回転させる。金属ヤスリにこすりつけて目的の大きさまで削る。

小型のペンタイプのミニルーターを使ったが、ヤスリに押し付けるとすぐに止まってしまった。パワーのあるミニルーターか、電動ドライバーを使ったほうがいいだろう。



今回は皿ネジを使うので、面取りカッターで皿穴を開けた。アルミ板を両面テープでゴム板に貼り付けて固定したのだが、カッターの摩擦熱でテープの粘着が溶けてしまい、何度も貼り直す羽目になった。皿穴は円盤を切り出す前に開けておいたほうがいい。



取り付けたところ。問題なく巻き上げできる。



上からオリジナルのネジの円盤を両面テープで貼り付けた。皿ネジにしたのはこのため。ちょっと出っ張っているが、一見すると分からない。