OLYMPUS OM ZUIKO 35mm F2の修理

遺品。社名環には「OLYMPUS OM-SYSTEM ZUIKO MC AUTO-W 1:2 f=35mm」とある。

初期症状

問題は後玉のクモリ。撮影してみるとシャープさがなく、全体に白っぽい。晴天下ではある程度見られる写真になるが、暗部は白くなる。清掃してみたが、エタノールやガラスクリーナーは効果がない。クレンザーやメラミンスポンジも駄目だった。

目次

後玉は酸化セリウムによる研磨で白っぽさが無くなる程度にはなった。しかし点々と深い孔が残った。

研磨前よりはマシになったが、絞っても写りはソフトで、明部に滲みがある。残った孔だけでなく、研磨のし過ぎや、後玉のコーティングがなくなった影響もあるだろう。

使えないほどの写りではないので、これで修理完了とする。

試写


α7Ⅲ + K&F Concept OM-NEX


(2019/2/3)
初稿


一階層上へ


分解

社名環をゴムアダプタで回して外す。



次に内、中、外の3つのカニ目リングが出てくる。

内は前玉の押さえ環だろう。中か外が前群レンズ全体を押さえていると思われる。先に内側を外さないと中と外へのアクセスが難しいので、先に内のリングを外す。

しかし内リングは固くて回らない。



(1)のリングの外側の溝にエタノールを注入し、ひたすらハンマーでコンコン叩き、たまにゴムアダプタで回してみるというのを繰り返した。30分程で回った。



外した。そのまま前玉が外れる。



前玉を外すと、次のレンズの中央に小さな傷があった。少し表面にカビがあったのでガラスクリーナーで清掃した。

次に中のリングを外す。



すると前群全体が外れた。前玉は前群に取り付けておくとよい。



一番外側のカニ目リングを外すとフィルター環が外れる。



外した。



組立時はフィルター環の裏にある丸印の切り欠きを、矢印のピンに合わせる。



(2)絞り操作環がそのまま外れる。外した下側の丸印あたりに鋼球があるので注意。



鋼球とその下のバネを回収しておく。



絞り操作環の裏側には鋼球がかかる溝がある。組立時はグリスを塗り替えておく。この個体は多すぎるグリスでリング全体がベトベトになっていた。



(3)絞り環がそのまま抜ける。



外すと(4A)(4B)の2ヶ所に絞り環と噛み合うフォーク状部品が出てくる。



絞り環の裏には、これに噛み合うピンが2つある。軽くグリスが塗られていた。



次に後ろから分解する。マウント環を外す。



マウント環の裏にある(5)絞り伝達レバーは(6)に噛み合う。(7)絞り込み伝達レバーは(8)のより右側に位置するように組み込む必要がある。これは絞りをF5.6より絞った位置にしておけばよい。

この個体は後玉にクモリがあるので、ここで後玉を単体で取り出しておく。(9)を回して外す。




外した。レンズは前後がわかりにくいが、凸が強いのが後ろ側。

後で気づいたのだが、この状態で(A)スペーサーと(B)レンズ(2枚)がそのまま外れる。ここで外しておいてもいいだろう。



次に前側に戻って(10)絞りカムを外す。

このままでは部品(4A)(4B)が引っかかるので、各ネジx2を外す。

組立時は、そのままだと(10)で(11a)のピンを踏んでしまうので、(11b)を矢印方向に押して避けること。

組立時、(4A)(4B)は微妙に取り付けシロがある点に注意。位置が悪いと絞りリングが入らなくなる。



(10)絞りカムがまだ外れない。絞り開放の場合は丸印の裏側で部品が引っかかる。



後ろ側から見てみると、(10a)が(11c)絞り込みレバーに引っかかっている。(10a)が引っかからない位置まで絞りカムを回すと外れる。

ここで後群の(A)スペーサーが抜けることに気づいたので、抜いておいた。



絞りカムを外した。



次に絞りユニットを外す。後ろ側のネジx3を外す。



外した。丸印のところにスペーサーがあるので紛失注意。

ここで後群レンズが後ろ側に抜けることに気づいたので抜いておいた。レンズは2枚ある。



レンズを外した。薄い(A)が後ろ側。厚い(B)が前側。(A)は後ろが凸、前が凹。(B)は後ろがフラット、前が凹。



距離環の滑り止めゴムを剥がす。軽く接着されているので、隙間に薄いヘラを差し込んで剥がしていく。



組立時はエタノールで剥がせる接着剤を薄く付ける。



次に距離環を外すが、無限遠でのヘリコイドの大まかな位置関係を記録しておく。



距離環を外す。サイドのセットネジx4を緩めると外せる。無限遠の状態で、ヘリコイドを動かさないようにゆっくり外す。



外した。無限位置で(A)内、(B)中、(C)外の各ヘリコイドをケガく。



直進キーx2を外す。キーとネジはそれぞれ違う形状。(12A)は皿ネジ。



(B)と(C)の終端位置までの回転数を記録する。

その前に(A)を少し右に回して緩めておく。これは(B)を締め込んだ際に(A)が(C)に干渉しないようにするため。

次に(B)を(C)に対して右に回して締め込んでいく。この場合は一回転する前に止まった。

なお、ここは1条ネジなので終端位置、外れ位置の記録は不要。

記録できたら(B)を(C)に対して左に回して抜く。5回転半ほどで抜けた。



次に(A)を無限位置から左に回して締め込む。



少し回すだけで止まった。(B)の無限位置のケガキに合わせて(A)に終端位置のケガキをしたいが、ちょうど窪みがあるのでケガけない。

そのため、この窪みの位置が終端であると覚えておく。

組立時は(A)を(B)に対して締め込んでみて、終端位置が合ってることを確認する。

次に(A)を右にゆっくり回して抜いていく。



抜けた瞬間の位置を、外れ位置として(B)の無限位置のケガキに合わせて(A)にV字でケガく。

組立時はこの位置からヘリコイドを入れる。



ヘリコイドが分離できたので、ベンジンで清掃し、新しいグリスを塗っておく。

最初はジャパンホビーツールの#30を使ったが、分解前と変わらないくらい重くなってしまった。そのため#10に塗り替えると、適度な感触になった。

この個体はオーバーインフなので、組立時に『共通の修理方法 - レンズの無限遠調整』で調整する。



後玉の研磨

この個体は後玉にまだらな曇りがある。レンズの周辺の遮光環にも劣化があり、塗装面が泡立ったようになっている。カビや汚れではなく、何らかの薬品でガラスが侵されてしまったかのように見える。

ルーペで観察すると、表面に大量の微小な孔があり、それが集まって白っぽく見えていることが分かった。所々に指で触って分かるほど深い孔もある。また、表面がデコボコに波打っている部分もある。



酸化セリウムで研磨するが、レンズの凸面全体を研磨したい。

そこで百均で売っていた「おゆプラ」という粘土を使った。この粘土は湯につけると柔らかくなり、冷めると消しゴムくらいの硬さに固まる。これを湯につけて柔らかくし、そこにレンズを押し付けて型を取る。

ここに水で泥状に溶いた酸化セリウムを入れる。

レンズはミニルーター用のディスクペーパービットに、クッション性のある両面テープで貼り付ける。それを電動ドライバーでくわえ、型に押し付けて低速回転で研磨する。最初はミニルーターを使ったが、回転が速すぎて酸化セリウムが一瞬で四散してしまった。

研磨を始めると、研磨が中央部に偏り、また全体に同心円状の研磨痕ができてしまった。

結局、レンズは「おゆプラ」側に再度型を取って両面テープで貼り付けて机に固定し、電動ドライバー側にはスポンジを接着剤で固定した。これでドライバーを動かしながら、レンズ全体をまんべんなく研磨した。

「おゆプラ」は研磨鉢としては駄目だったが、凸レンズを机に固定するのには使えた。



5分ほど研磨して休憩(ドライバー充電)、というのを何回かやると、クモリが薄くなった。合計で30分はかかったと思う。

深い孔が点々と残っているが、研磨しすぎると危険なのでここまでとする。


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