Rolleiflex 2.8Fの修理

遺品。2017年に長堀橋の鈴木特殊カメラでオーバーホールしてもらったが、その後不具合が発生した。撮影中、ミラーを収納した際にスクリーンの上にミラーが落ちてきた。中を見てみると、アイレベルミラーの押さえ爪がなくなっている。

それをきっかけに自分でカメラ全体を調べてみると、スローとフォーカスに問題があることに気づいた。スローは使わないので気づかなかったが、1sの設定で計測すると、1.5sと遅い。フォーカスは実用上問題がないが、ごく僅かにズレている。

今回は時間に余裕が無いため、詳しい機構は調べずに故障部分のみを最短距離で修理する。

初期症状

目次

修理の結果は良好。スローはなんとなく触っているうちに直ってしまった。よく分からないが、とりあえず秒時は合っているので良しとする。

試写

Velvia 100 (220)(→blogの試写


(2019/4/13)
初稿


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前板分解

前板を外すが、初期状態として速度1/500。絞りF22にしておく。ネットで調べたところ、これがセオリーらしい。

前板を固定するネジは丸印の4箇所、革の下にある。右下だけは矢印のシンクロ部品が邪魔になるので、これを外す必要がある。




部品を固定しているカニ目リングを回して外す。



次にシンクロ接点部品を外す。バネが入っているのでそのままでは外れない。部品の頭を矢印(1)方向に動かしながら、左下のお尻部分(2)を浮かせつつ、(3)方向に抜くと外れる。



外した。



部品の裏側。組み立ての際はこのバネをスリットに入れる。



丸で囲った部分がスリット。写真反対側にもある。



革をめくってネジを外していく。エタノールで革の接着剤を緩めるとよい。写真は右下部分。この個体はオーバーホールの際にプラスネジに変更されている。



左下。



右上。



左上。

4つのネジを外したら慎重に前板を持ち上げる。この個体は右下のシンクロ接点が引っかかったので、前板を右下側に押しながら外した。




前板を外したところ。前板は左右に裏返した。



状態を記録するため、ギアのかみ合わせをマーキングしておく。




念のため、シャッターユニットに絞りと速度を伝える部品の状態も記録しておく。両方とも端に当たっている状態。



前板の動きを見ておく。前板の部品は接頭字にFを付ける。点線矢印は1/500, F22からダイヤル操作で設定を変更した場合の回転方向を示す。

(F1)速度ダイヤル。写真は1/500。回すと中間ギアを介して(F3)も周る。(F3)によって速度表示が変わる。

(F1)が回ると連動して(F4)も回る。(F4)はシャッターユニットに速度を伝える。

更に(F1)に連動して(F2)の一部も回る。(F2)は上下2段ギアで、写真手前側のギアが回る。中央部(F2a)は回らず、外周部(F2b)が回る。

(F2)は絞りダイヤルで、写真はF22。ダイヤルを回すと写真奥側のギアと中央部(F2a)が回る。

(F2)に連動して(F6)が回り、絞り表示が変化する。

(F2)に連動して(F5)も動く。シャッターユニットに絞り値を伝える部品。

(F2)は本体の露出指標と被写界深度(フォーカスノブに表示される)に動きを伝える役割もある。露出指標は(F2a)と(F2b)の両方が影響し、被写界深度は(F2a)のみが影響する。

(F7)はセルフレバー。

(F8)はレリーズボタン。そのまま外れるので回収しておく。



レリーズロック周りがホコリを巻き込んだ古いグリスでベタベタなので清掃する。写真はアンロック状態。



ロック状態。ロックレバーを回すとスリットにバネが入り込み、レリーズボタンの溝にはまってロックする。

バネを外してグリスを入れ替える。表側のカニ目リングを外すと部品ごと外せそうだが、このまま清掃した。以前にレリーズボタンを押すと戻ってこないことがあったが、グリスがボタンに回り、粘ってしまうのだろう。



本体側。大まかに各部の働きを見ておく。事前に状態をマーキングしておくこと。

(1)は重要なギアユニット。内側(1a)は前板(F2a)にリンクする。外側(1b)は前板(F2b)にリンクする。

(2)は上下2段の直線ギアで、上側(写真手前側)は間接的に(1a)に、下側(写真奥側)は(1b)にリンクしている。1/500、F22では、(2)はいずれも一番下に下がった状態。(1)と(2)のリンクをよく記録しておく必要がある。

(3)は速度操作ピン。前板の(F4)がこれの左側にリンクする。

(4)は絞り操作レバー。前板の(F5)がこれにリンクする。

(5)はセルフレバー。前板の(F7)にリンクする。組立時はリンクするように(5)の位置を調整する。

(6)はレリーズプレート。前板の(F8)にリンクする。(F8)取付時はここと角度を合わせる。



(1)ギアユニットの拡大写真。ここも動かす前に状態を記録しておくこと。そのまま外れるので注意。このギアユニットは通称「遊星ギア」というらしい。理由は不明。

動きには問題がないが、ホコリを含んだグリスがべっとりついている。オーバーホールしてもらったはずだが、このような箇所が複数ある。とりあえず綿棒が届く範囲だけ清掃した。

上部の(1a)(1b)はそれぞれ前板(F2a)(F2b)とリンクするため、角度が重要。下部の二段ギアになっている(1c)(1d)は、上下2段ある(2)直線ギアとのリンクが重要。既に述べたが写真の1/500、F22では(2)は一番下(写真左方向)になっている。この(1)と(2)の状態が合っていればよい。

(1b)は突起が2箇所あり、反対側の突起と形状が違うので方向性がありそうに見えるが、試しに逆に取り付けても問題なかった。

状態を記録したら(1)を外して保管しておく。外す際、底部にワッシャーがあるので注意。取り付け時は底部の擦れる部分にグリスを塗っておく。

このギアユニットの動きを見ておく。まずは(1a)を回した際の動きから。

被写界深度設定の(1a)を回すとそのまま一番下の(1d)が回り、(2)下が動く。(2)下が被写界深度表示につながっている。

(1a)と同時に(1f)も回る。すると(1f)とリンクしている縦になった2つのギア(1e)が回る。

(1e)とリンクしている(1b2)、(1b)は前板のダイヤル(F1b)にリンクしており動かないので、(1e)は(1b2)の下をグルグル回るように動く。

(1e)の軸も一緒に回るので、それに押されて(1c)も回る。

(1c)が回るとリンクしている直線ギア(2)上も動く。(2)上は露出指標に繋がっている。

次に(1b)を回した場合の動き。

(1b)を回すと、(1b)と一体(1b2)が回り、リンクしている2つの(1e)が回る。

(1e)はリンクしている(1f)の上をグルグル回るように動く。

(1e)の軸も回るので、それに押されて(1c)が回る。

すると(1c)とリンクしている(2)上が動く。(2)上が動くと露出計の露出指標が動く。



(1)の上部の角度がわからなくなったら、写真のように前板とリンクさせて確認するとよいだろう。



ビューレンズのフォーカス調整

テイクレンズは無限遠が出ている。しかしビュー側はスプリットイメージを見ると、ごく僅かにオーバーインフになっている。実用上は問題ないが、ついでなので調整する。

レンズ全体はネジで取り付けられており、硬いが力を入れると回る。銀色のリング(A)が丸印の部分で接着剤で固定されている。本来はこのリングでレンズが固定されているのかもしれない。レンズを外したいが、(B)を掴んで回すと(B)だけが回って外れてしまう。おそらく前玉の押さえ環だろう。とりあえず(B)だけ外しておく。



押さえリングを外すと前玉がそのまま外れる。前に凸。保管しておく。



接着剤を除去し、鏡胴を掴んで回して外す。




外れた。ネジは1条。グリスが塗られており、ホコリだらけ。ここはグリスがいらないと思うので清掃で除去する。



外したビューレンズ。一番下に銀色のリングがくっついている。レンズ側のネジ山もグリスを清掃する。清掃したら前玉と押さえ環を取り付けておく。




銀色のリングを取り出して裏返しにした。リングはすり鉢状で2箇所に切れ込みが入っている。やはりこれを締め付けることでビューレンズの位置を固定するようだ。

あとはこのリングをつけてビューレンズを本体にねじ込み、フォーカスを調整する。

ビューレンズは『共通の修理方法 - レンズの無限遠調整』で説明している簡易コリメーター法ではなく、単純にテイクレンズのフォーカスと、ファインダーのスプリットイメージを一致させた。これは経験上、ビュー側を簡易コリメーター法で無限遠調整すると、スプリットイメージが微妙にずれるため。個体差はあるとだろう。

調整にはビュー側もテイク側も、ある程度大きい倍率のルーペが必要になる。



簡単に調整方法を説明しておく。

まずはテイクレンズ側で適当な対象物にフォーカスを合わせる。対象物にはフォーカス調整用の細かいパターンを印刷したものを使用した。フィルムレールにスクリーンを貼り付け、15倍程度のルーペで覗きながら距離ノブを回してフォーカスを調整する。対象物は最短焦点距離付近に置くと良いだろう。これは近距離の方がフォーカスがシビアになるため。



次にファインダーのスプリットイメージが合うように、距離ノブは動かさず、ビューレンズのねじ込み具合を変えてビュー側のフォーカスを調整する。

フォーカスが一致したら銀色のリングを締め込んでビューレンズの位置を固定する。このリングのカニ目を回すには、内側に湾曲した特殊なカニ目レンチが必要だろう。手元にちょうどいい治具がないので、0.5mm厚のゴム板でリングを掴んで締め込んだ。リングを接着剤で固定すれば完了。



スローの調整

スローが遅いので調整する。テイクレンズを掴んで回し、外す。



矢印の黒いリングを外す。丸印のネジx1を外すとリングを回して外せる。

ネジ穴とリングの位置を記録するため、一応事前にマーキングをしておく。ネジ穴はこのリングの下に7つある。おそらく黒いリングを締め込んだ際に、どの位置でもネジで固定できるようにするためだろう。



黒いリングを外すと銀のカバーが外せる。中央部と外周部に分かれており、その両方を外せそうだが、とりあえず中央部から外してみる。丸印の位置にピンが出ているのを覚えておく。



次に(B)外側のカバーを外す。

丸印の位置でリンクがあるのを記録しておく。これは(B)と銅色の(A)速度カムを固定するためのもの。このリンクで(A)と(B)が連動して動く。(B)には(3)速度操作ピンが固定されいる。つまり(3)による速度の変更は(A)に伝わるようになっている。

外す際にそのリンク部分が引っかかるので、(A)を押さえながら外すとよい。



(A)速度カムもそのまま外せる。数カ所でシャッターユニットから出ているピンとリンクしていることを記録しておく。




シャッターユニットが現れた。速度カムとリンクしていた部分は丸印で示した。

(S1)はチャージリング。右回りでチャージする。チャージクランクからは(S1a)の部分が押されてチャージする。(S1)は固定されておらず、そのままチャージすると外れてしまうので、チャージを試すときは(S1)を押さえながら行う。

(S2)はシャッター開閉ギアで、シャッター開閉の心臓部。チャージされるバネはこの下に入っている。(S1)のギア部分である(S1b)とリンクし、(S1)の回転により(S2)が左回りにチャージされる。

(S3)はレリーズレバー。

(L)はスローがバナー。(T)はセルフタイマー。

(S2)は上部にモリブデンと思われる黒いグリスがべったり付いていたので清掃した。先程外した速度カムの裏側も同じグリスで汚れていたので清掃した。



チャージ状態。

(S3a)を動かすとレリーズ開始。反対側の(S3b)が動いて(S4)の(S4a)を押す。(S4a)の反対側の(S4b)は丸印の辺りで(S5)の一部を係止している。(S4b)が動くとこの係止が外れてチャージ状態の(S5)が動き出し、レリーズする。

(S1)チャージリングは(A)でバネがかかっている。

このとき、テストのため速度カムを取り付けて1秒でシャッターを切ったところ、1.08sとほぼ問題がない。他の秒時も合っている。先程清掃したグリスのせいだろうか。

釈然としないが、正常に動いているし、時間が迫ってきたため、このまま組み立てる。



参考までに、レリーズ状態でチャージリングを外したときの写真を掲載しておく。

記事を書きながらこの写真を見て気がついたが、スローガバナーはネジx2で取り出せるかもしれない。右上の丸印はネジが見えないが、カバーの形状からすると奥にネジがありそうな気がする。



アイレベルミラーの固定

アイレベルミラーの固定爪の一つが折れてなくなっている。ここはネジやバネがなく、ミラーの交換には爪を曲げるしかないようだ。金属疲労でミラー出し入れの際の衝撃で折れ飛んだのだろう。



ステンレス板を適当に切って曲げ、写真のようなパーツを作成した。




このパーツでミラーを挟み込み、固定した。裏側は固定パーツが動かないように軽く接着した。

アイレベルミラーを出し入れしてみたが、しっかり固定されて外れなくなった。


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