Mamiya SUPER 16の修理

遺品。

初期症状:

1/2なども最速で切れる。たまにスローガバナーの音がして低速で切れることもある。Bは正常動作。

目次:

劣化したグリスが全ての原因で、これを入れ替えることで修理完了した。グリスは明らかに過剰に塗布されており、新しいグリスは大幅に少なくした。グリスは、今回から金属用のウレアグリスを使用することにした。ホームセンターで購入した一般的なもので、今まで使っていたシリコングリスと比べるとかなり柔らかいようだ。

全体に使われている金属が薄いせいか、組立時にネジをしっかり締めると変形してしまう。そのためネジは強く締めないようにした。

単純なメカニズムで作られているカメラで、グリス以外の故障はほとんどないと思われる。

バネに負担をかけないため、設定位置は「距離=∞」「絞り=11」で保管しておくとよい。


試写:

(blogの試写


(2018/2/24)
フォーカスの確認」を追加。

(2018/1/1)
試写画像を追加

(2017/11/27)
初稿


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上からの分解

先にフィルム室の蓋を外しておく。標準でイエローフィルターがついているが、これも蓋を開けて取り出しておく。



上から分解していく。ネジx3外すと表示板が外れる。



外すとダイヤルなどが露出する。①レリーズボタンカバーは乗っているだけなので回収しておく。

②巻き上げダイヤルは③の逆転防止爪と噛み合っている。④カウンタは数字がデタラメに並んでいるようにみえるが、これは巻き上げダイヤルが1/3回転でチャージ完了するため。チャージダイヤルの1/3回転分のギアの歯で数字が1進むようになっている。

⑤距離スライダーは周りが劣化グリスで汚れており、動きが硬い。

⑥絞りプレートは、表示盤を外す前は左端に倒していたが、外すと勝手に右に動いた。表示板でこれを固定していたらしい。組立時、表示板のネジの閉め混み具合で⑥が動く抵抗が変わるので、適宜調整する。

②チャージダイヤルも乗っているだけなので外す。



ネジ外してカウンタを外す。



ネジ外して①速度プレート、②絞りプレートを外す。

①のリンクは、矢印に見えている内部から出ている金色の部分。②のリンクは見えないが、プレートの一部が本体内に入り込んでいる矢印のところだろう。



組立時は①が下側、②をその上に乗せる。写真では見えないが、③の部分に②絞りプレートとリンクする内部のレバーがある。

次にサイドの矢印のネジx2外して上カバーを外す。



外したところ。上カバーの古いグリス汚れを清掃し、新しいグリスを塗る。少量で良いだろう。

距離スライダーはネジを外せば分解できるので、分解清掃しておく。組立時はネジの閉め混み具合でスライダーが動く抵抗が変わるので、適宜調整する。

ここで故障原因がわかった。スローガバナーの矢印のピンは、本来ならチャージした際に自動的に左に戻る必要があるが、油が回って戻らなくなっている。試しに指で左に押し、速度を1/2に設定すると、1秒くらいかかったが低速シャッターが切れるようになった。スローガバナーを外して洗浄すれば良いと思われる。



前からの分解

スローガバナーは前からネジで固定されるようなので、前から分解していく。ネジx2外して前カバーを外す。



外した。カバーは左右に裏返して置いている。

カバーには片方だけ①にスペーサがあるので回収しておく。反対側はネジ②がスペーサを兼ねている。

③はレリーズボタン④と一緒に動くピンで、レリーズ阻害用。ファインダーフレーム枠が引き出されていない時は、③が⑤に当たってレリーズボタンが押せないようになっている。



前カバーは①フィルター室、②フレーム枠押さえ、③フレーム枠、④前板、⑤フィルター蓋、に分離できる。グリス汚れがあるので清掃、塗り直しておく。フィルター室は頻繁に擦れる場所ではないので、グリスはなくてもいいかもしれない。



黒い遮光カバーを外す。ネジx2で外れる。



外した。丸のところにフェルトがある。フィルム室への光漏れ防止用。17.5x5x2.5。



スローガバナーを外す。ネジx2で外れる。

スローガバナーのピン①と、本体側レバー②のリンクに注意。スローガバナーを外すと①は自動的に写真右方向へ移動するので、組立時は①を左に押して組み込む。



外したスローガバナー。かなり動きが悪い。瓶に入れたベンジンに漬けて何度か動かし、瓶を振って洗浄した。すぐにベンジンに黄色い油汚れが出てきた。

洗浄したらベンジンで5%に希釈したラウナ#40をごく少量注油する。場所は丸印の軸受とアンクルの足。軸受は写真裏側も注油する。

スローがバナーはアンクル、ガンギ車、ギア、の3つだけの最小構成。ギアにはバネがあり、ピンが点線矢印の方向に戻るようになっている。

洗浄、注油後はスムーズに動くようになった。ピンも素早く戻る。本体に組み込むと低速シャッターがちゃんと低速で動くようになった。シャッター速度は測っていないが、感覚的には理想値より少し遅い程度で問題なさそうだ。



ヘリコイドグリスの交換

直接レンズの距離レバーを動かしたところ、ヘリコイドがスカスカの状態。グリスを交換したいのでレンズユニットを外してみる。

先に矢印のバネのかかりを外しておく。



ネジx4でレンズユニットが外れる。写真では念のために絞りとシャッターのバネも外しているが、必要なかった。



外したところ。



レンズの横には丸のところにケガキ線がある。恐らく無限位置のものと思われる。

写真はヘリコイドを時計回りに締め込んだ終端位置。下側のケガキに合わせて点線の部分をケガく。ケガかなくても、この写真の状態を記録しておくだけでもいいだろう。



ヘリコイドを反時計回りにゆっくり回して抜いていく。外れた瞬間の位置を、丸の無限遠の位置に合わせて点線のようにV字にケガく。別にV字でなくても外れる位置であることがわかればよい。



外した。ヘリコイドは6条なので、間違えることはないだろう。グリスは残骸が若干残っていたので、エタノールで清掃して塗り直した。グリスは手持ちのウレアグリスだと柔らかすぎたので、それより固めのシリコングリスを使用した。

ここで必要ならレンズを清掃すると良い。前群は黒いカバーがカシメられており、外せない。カバーが距離レバーと一体になっている。しかし前群レンズは1枚なので問題なく裏表を清掃できる。

後群は2枚構成。カニ目リングを外せば分離できると思われる。レンズ内部は綺麗だったので外さなかった。



後玉の後ろ側には若干のカビがあった。エタノールやレンズクリーナーでいくら拭いても落ちない。ネットで調べたところ、一般的なイメージ通り、カビにはハイター、つまり塩素系漂白剤が良いらしい。試しに手元にあった洗濯用ハイターを付けて拭くと、すぐにカビがなくなった。かなり効果があるようだ。仕上げにエタノールで拭き上げた。



その他パーツの清掃

各所が古いグリスで汚れているので清掃、塗り直しをしていく。

レリーズボタン周りがかなり汚れている。レリーズボタンはリンクしているレバーを矢印方向に押すと引き抜くことができる。



外した。ボタンは矢印の斜めに切られた部分でレバーを押す仕組み。

ボタンが入っていた穴の中もグリスだらけ。レバーが邪魔なので、ネジx1で外す。



外した。穴にはシンクロの線とバネがあって清掃できない。



ネジx1外す。



バネとシンクロ関係一式が外れる。これで穴の内部を清掃する。

内部はさほどボタンが擦れる様子はないので、グリスは塗らなかった。塗ったのは、ボタンとレバーが当たる部分のみ。



裏カバーを開ける。ネジx3外す。

このカバーに若干の錆があったので、外してから研磨剤の「ピカールケアー」で軽く磨いて綺麗にした。



接眼部品周辺がグリスまみれ。清掃してグリスを塗り直す。



組立時の注意

組立時は黒い遮光カバーより先に、上カバーを取り付けること。



理由は距離レバーと距離スライダーを写真のようにリンクさせるため。上カバー取り付け前、距離レバーはバネの力で無限遠を超えた位置(写真時計回り方向)に回転しているので、反時計回りに押してリンクさせる必要がある。遮光カバーで前を塞ぐとこのリンク作業ができなくなる。

リンク作業後に遮光カバーを取り付ける。取り付ける際は上カバーと本体の間に遮光カバーを差し込む点に注意。また遮光カバーのフェルトを忘れないように。



前カバーを組み立てる際、フィルター蓋にはレールに嵌まる溝がある点に注意。



フレーム枠押さえの丸の部分がフィルター蓋のレール。ここに先程の溝を嵌める。



フォーカスの確認

このカメラはフィルム面が露出していないため、ピントグラスを貼り付けてフォーカスを確認することができない。確認するには分解が必要になる。

まずは(2)フィルム室底蓋を外し、(3)前カバー、(1)遮光カバーなどを外して写真の状態にする(分解や組み立ての詳細は別項参照)。



(1)の穴の奥にネジが見える。これを外すとレンズとフィルム面までの筒(名称不明)一式が外せる。ネジを外す前に(2)のフォーカス用のバネのかかりを外しておく。



外したところ。丸印の圧板はバネの力がかかっており、そのまま外れるので注意。清掃が必要な場合は外す。



圧板も外したところ。



(1B)シャッターのバネのかかりと(2B)絞りのバネのかかりを外してフリーにする。

(1A)と(2A)を点線矢印方向に動かし、シャッターと絞りを開ける。



あとは点線で示したフィルム面にピントグラスを貼り付ければフォーカスがチェックできる。組立時は距離レバーと絞りレバーを本体とリンクさせること。

試写で写真がボヤケ過ぎていたため、フォーカスのズレを疑って分解したが、この個体のフォーカスは正確だった。無限遠は出ており、最短距離は表示通り30cmだった。ボヤケの原因は、単に撮影技術が未熟で手ブレしていただけだった。



メカニズム

レリーズの仕組み。写真はレリーズ状態。

チャージプレート①の(1A)がチャージダイヤルの回転によって押されると、①全体が回転する。一緒に(1B)が動いて③シャッター羽根レバーを少し上に押し、③の右側に移動する。(1C)も一緒に動いて⑤で係止(引っ掛けて止める)される。

②は絞りレバーで、右方向が絞込、左方向が開放。



チャージダイヤルは、裏側に3つの突起が出ている。この突起で(1A)を押してチャージする。3つあるのは、ダイヤルの1/3回転で1回チャージするため。

ダイヤルの真ん中はフィルム室まで貫通しており、ここがスプール軸のスリ割に噛み合って軸を回す。つまりダイヤルが直接フィルムを巻き上げている。



速度設定、最高速でのチャージ。

レリーズボタン④が押されると、⑤が時計回りに回転して移動、すると(1C)の係止が外れ、バネ⑥の力でチャージプレート①全体が反時計回りに回転する。すると(1B)が左に動いてシャッターレバー③を押し、シャッターを開く。③はバネの力ですぐ右に戻ってシャッターを閉じる。

⑧⑨⑩はスロー関係。最速では動作しないようになっている。スローガバナーのピン⑩は常に左方向に力がかかり、(8C)を押している。⑧に反時計回りの力がかかっているので、(8A)にも上方向の力がかかっている。しかし速度設定カム⑨が最速設定になっているので、(8B)が⑨に当たって⑧が回らないようになっている。

⑪はBulbの機構。反時計回りの力がかかっているが、⑨がBulb設定以外では(11B)が⑨に当たって動けない。



シャッター付近拡大。写真はチャージ。

レリーズで(1B)が左に動いてシャッターノブ③を押す。③は左に動くとシャッター羽根が開く。(1B)が通り過ぎると③はバネの力で右に戻り、シャッター羽根が閉じる。

③が左に動く際に(3A)も一緒に動き、シンクロ接点⑦に当たる。



低速の動作。写真は最低速1/2のチャージ。

カム⑨が最高速から回転したことで(8B)が上に上がっている。同時に(8A)、(8C)も反時計回りに移動している。

レリーズされると①が反時計回りに回転するので、(1D)が矢印方向に移動して(8A)を押す。(8A)は(8C)を介してスローガバナー⑩とリンクしているので、⑩の抵抗を受けながらゆっくり時計回りに移動する。①もゆっくり移動し、その間シャッターが開いていることになる。



Bulbの動作。Bulbのチャージ。⑨がBulb設定になると(11A)と当たらなくなり、⑪が反時計回りに回転している。そのため(11B)が上に上がっている。



レリーズボタンを押しているBulb状態。(1C)が(11C)で係止され、シャッターが開いている状態で止まっている。レリーズボタンを離すと⑤が下方向に移動して(11B)を押す。すると(11C)の係止が外れてシャッターが閉じる。



絞りの構造。単純な2枚羽根。②絞りレバーで2枚の羽根を操作する。常に絞込方向に力がかかっており、②を右に動かすと絞りが開く。開いていくと、(13A)が右方向、(13B)が左方向に移動して絞りが開かれる。

距離の調整は⑭距離レバーで行う。常にバネ⑮が無限遠方向に引っ張っている(写真は無限遠を超えた位置)。⑭を反時計回りに動かすと近距離側になる。