マガジン - Hasselblad 500Cの修理

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目次

事前確認

A12とA16マガジン。A12は撮影可能だが光漏れする。

A16はクランクで1コマ目まで巻き上げて撮影後、ボディ側のチャージノブで巻き上がらない。空回りしているようで、内部でカチカチという音がしている。

写真はA16マガジンのものを使用した。A12マガジンも基本的には同じ。

念のため、分解前に各部の機能を確認しておく。

1から見えているギアはボディのギアと噛み合い、フィルムを巻き上げる。写真上方向にギアが回る。反対方向には回らない。マガジンのクランクを回しても回転しない。

2は引き蓋。

3はボディからレリーズ情報を伝達される部分。写真では部品が上下に分かれているが、上の方がその機能を持つ。下側はレリーズロック。2が取り付けられていると下側の部品がボディからのレリーズプレートの動きを妨害する。

4はマガジンとボディを噛み合わせる部分。マガジン上部のスライドボタンで内部の爪が左右に動く。2が取り付けられていないと、スライドボタンの動きが阻害され、マガジンをボディから取り外せない。



引き蓋を途中まで動かした所。このあたりで3の下側部品が引っ込み、ボディ側がレリーズ可能になる。



5はクランク。右に回転させ、フィルムカウンター0から1まで巻き上げる。左回転は空回りする。カウンター1以降は右回転は動かないので、ボディから巻き上げることになる。

6はフィルムカウンター窓。フィルムを取り出すと0に戻る。

7は巻き上げマーク窓。フィルムカウンターが1になる前は黒、巻き上げ完了して撮影可能になる白、レリーズすると赤になる。



フィルム取り出しノブ。



左に少し回すとフィルムが取り出せる。



取り出した所。圧板等、一式が取り出せる。



8はフィルム巻き上げギア。フィルム装填側と噛み合う。

9はカウンターリセットピン。これが押されていないとフィルムカウンターが0に戻る。



カバーの溝、写真右側にだけ遮光用毛糸がある。まだ弾力がある。



フィルム装填側の溝にも遮光用毛糸がある。カバー側で毛糸がなかった部分。こちらも弾力が残っている。



10はカバーの(8)と噛み合ってフィルムを巻き上げる。右にのみ回転し、左には回転しない。



フィルム装填側のノブを真っ直ぐにすると、



圧板と金具11の間に隙間ができ、フィルムを通せるようになる。


遮光材

遮光剤の交換のため、カバーを外す。ネジ×9。

A16は右上のネジが非常に固く、外れたもののかなり舐めてしまった。元のネジは皿ネジM1.7×4。手元にあった低頭鍋ネジM1.7×5に交換した。



外した。



カバーの裏。赤で囲った部分にテレンプがあった痕跡。毛が全くなくなっている。サイズは69×3。

テレンプが入る溝は傾斜しており、深さは浅いところでおよそ0.20mm。引き蓋のスリットを多めに0.5mmとすると、少なくとも0.70mmの厚さの遮光材が必要。手持ちの植毛紙0.7mm厚を両面テープ0.17mm厚で貼り付けた。

最初、パトローネから剥がしたテレンプを貼り付けたが、引き蓋の出し入れが重くなってしまった。



12はモルトプレーン一式。黒いプラスチックのシートにモルトプレーンがくるまれている。そのまま外れる。

13はボディ・マガジン固定爪。左右にスライドする。引っ張るとそのまま外れる(裏側にバネがかかっている)。グリスを洗浄して塗り替えておく。

14は13の妨害部品。そのまま外れる。引き蓋が14cに当たる。引き蓋がはまっていると、13aが14bに入り込んで13が左端まで移動できる。引き蓋がはまっていないと、13aが14aにぶつかって移動できず、ボディとマガジンを着脱できない。

15はレリーズ妨害。そのまま外れる。引き蓋と15cが当たる。引き蓋がはまっていないと15bが避けているが、はまっていると15bが上に移動し、ボディからのレリーズプレートの移動を阻害する。

2つの16は接着剤で軽く付いているだけなので、紛失注意。

17はボディからの巻き上げの力を受けるギア。

18はクランクを操作すると回転するギア。

19はボディからレリーズプレートの押し出しを受ける部分。



モルトプレーン一式を外した。



12a:黒いカバーと、12bモルトプレーンに分離した。折れ曲がった12aが12bを挟んでいた。引き蓋が直接モルトプレーンに当たるとボロボロ崩れるため、プラスチックシートでカバーしているのだろう。

12aは透明プラスチックシートで、内側がツヤ消し黒で塗装されている。

12bのモルトプレーンは崩壊していて厚さが分からない。銀色のシートの上に乗っている。このシートは金属製のようだ。

12が入る溝はおよそ深さ1.50mm。黒いプラシートの厚み0.1mm×2=0.2mmと、銀色のシート0.03mmを引き、引き蓋のスリットを多めに0.5mmとすると、計算上は1.77mm厚の遮光材が必要になる。しかし銀色のシートがスリットの隙間を埋めるように反っているため、1mm程度の遮光材があれば十分だろう。

最初は1.5mm厚のモルトプレーンを貼り付け、光線漏れなく使用できていた。しかしジャパンホビーツールのモルトプレーンは摩擦が強く、引き蓋が重い。夏場、湿度が高くなると摩擦がさらに強くなり、あるときモルトプレーンが千切れてスリットからカスが出てきた。

この部分はサラサラして引き蓋が滑りやすいスポンジが最適だと思うが、そのような素材は見つからなかった。

そのため、ジャパンホビーツールのやや厚手(0.9mm)の遮光材「植毛布(スエード)」に変更した。すると抵抗なく引き蓋を出し入れできるようになった。ちょっと薄すぎるような気もするが、とりあえずは使えている。



モルトプレーンが貼り付けられていた銀色の金属シートの寸法。湾曲しており、凸面にモルトプレーンが貼られていた。



プラスチックカバーの寸法。

清掃時に塗装が剥がれて透明になったので、内側を艶消し黒で塗装した。


巻き上げ


A16マガジンの巻き上げ不全を修理する。

クランク側の革を剥がす。



エタノールで容易に剥がれた。接着剤は透明。剥がした後も粘着力が残っているので再利用できそうだったが、古いものなので一旦剥がした。

組立の際は事務用のスティックのりを使用した。

次にネジ×3を外す。



カバーがクランクごと外れる。固いので、ドライバーをコジ入れて外した。



矢印の溝に劣化したモルト。除去し、代用で毛糸を貼り付けた。A12マガジンも同様だった。

20はクランク裏のラチェット爪。

21クランクで回すギア。20と噛み合う。




矢印のワッシャーを外しておく。



黒いカバーを外す。ネジ×2。



22の爪は、クランクを回してフィルムカウンタを1にしたときにクランクを止める役割。23aの切り欠きと噛み合う。



回転方向は巻き上げ時のもの。

21はクランクと直結するギア。最初はこのギアでフィルムを巻き上げる。

24はフィルムの軸に繋がるギア。このギアでフィルムを巻き上げる。固定されていない。

25は21と24の中間ギア。

25の下側に見えている26は、ボディの巻き上げとリンクするギア。後で説明するが、25とリンクしている。

27は内部にバネが入ったギア。固定されていないので注意。26とリンクしている。

巻き上げ時、26はボディ側のギアとリンクしているため、27の力で逆回転しないが、巻き上げ完了時にボディ側のギアと26のリンクが途切れる。すると27の力で26が逆回転し、初期位置に戻る。

とりあえずは25を外す。そのまま外れる。



25を裏返して置いた。

26は複雑な構造。2つの爪28と29が固定されている。後ろからピン26aが出ており、28に当たっている。

28の左端、28aは25の歯の内側とリンクしているようだ。26がボディからの巻き上げで回転すると、28aを介して25が回転し、フィルムを巻き上げているらしい。

26を左に回転させると、ある角度から26aが28を押して右に動く。しかしかなり粘っており、動きが悪い。故障の原因はここにありそうだ。



脱線するが、試しに丸印にあったギア24を外した際、ギア27を浮かしてしまい、内部のバネが弾けてしまった(写真では両方のギアともに外している)。



27の裏側。27aの切り欠きにバネの端を内側から引っ掛ける構造(写真はバネが左右逆)。



バネの中心側は長方形の穴がある。



これをギアの土台の丸印の突起に引っ掛けるようになっている。

土台を抜く。矢印で示したワッシャーに注意。



抜いた所。裏返した。突起があり、これが丸印の窪みにはまる。



バネを外側から少しずつギアに入れていき、最後に土台をはめる。

組立時に取り付ける。



本題に戻る。ギアの軸を抜く。固いので、プライヤーで掴んで揺らしながら抜いた。



抜いた所。段差は上が短く、下が長い。

次にギアを外す。そのまま外れる。



30のプラスチックの板がギアの下側まで伸びていた。



ギアの裏側。グリスで汚れており、動きが悪い。表側と二重構造になっている。分解はできないようだ。ベンジンに浸けて超音波洗浄するとスムーズに動くようになった。

裏側には突起がある。この突起は、



初期位置で30の丸印くらいの位置に当たるようだ。

巻き上げていくと突起が四角印の位置に当たる。



巻き上げの最初は28aが25にかかってフィルムを巻き上げる。

一定角度回ると(1コマ分巻き上げると)、26裏側の突起がプラスチック板(30)に当たり、26aが固定される。

26はそのまま回転するので、28が26aに押されて角度が変わり、28aが25とリンクしなくなる。26は回転し続けるが、25は滑って回転せず、それ以上フィルムは巻き上がらない。

29の役割は分からなかった。

このまま組み立てると、正常に巻き上げできるようになった。



A12マガジンは同じ構造だが、このギアだけ違うものになっている。この部分で巻き上げ量を調整しているようだ。



組立時、26を取り付ける前に27を右に1回転ほどチャージしておく。

26は右回転いっぱいまで回る位置(写真の位置。裏側の突起が30に当たる所)で取り付ける。

これでチャージが完了時、ボディ側のギアの歯のない部分が来ると、26が逆回転(右回転)して写真の初期位置に戻る。丸印の1つだけ歯が欠けている部分が目印。この歯の欠けは、チャージ開始でボディ側のギアとの歯を噛み合わせ始めるためのもの。



25の取り付け時に29を踏んでしまうので、穴から29を避けながら取り付ける。



動作テストをしている際、レリーズ後に巻き上げ完了マークが赤にならない現象が2コマだけ発生した。

レリーズするとAがBの側面を滑って移動するのだが、これが引っかかってしまうことがあるらしい。AとBがぶつかる部分に微細な凹凸が出来ていたので、ヤスリでなめらかにすると正常に動作するようになった。



最後に蓋を締める際は、ネジを締める前にクランクを軽く回し、内部の爪を噛み合わせておくこと。


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