旭光学 ASAHI PENTAX SVの修理 - その他

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チャージの仕組み


チャージの仕組みを説明する。

①は外してある黒い巻上ギアを表す。巻上げレバーでチャージ操作をすると、ゼンマイユニットが①を押して左に回す。この回転が上下2段の②上に伝わる。そのまま②下が連動して回り、それが③下に伝わる。これが茶色いピンを通じて③上に伝わり、これが④先幕チャージギアを回し、先幕がチャージされる。

途中、③下は⑤も回す。⑤はフィルム巻取軸とつながっており、更には底部の巻上ギアも連動して回転する。

レリーズ時は逆順に伝わっていく。④が回ると③上が回るが、ギアのリンクはここで途切れ、③下は回らない。



このリンクの途切れは、巻き上げ時は茶色いピンが上がっており、レリーズでレリーズプレートに押されて下がるのを利用している。

巻き上げ時、③下の回転と同時にピンも回転し、ピンの赤丸部分(の裏側)が③上の緑丸部分に当たって③上を押して回す。

レリーズするとレリーズプレートに押されてピンが下がり、③上の緑丸の位置に対応するのは、ピンの欠けた青丸部分になる。そのため、③上が回ってもピンは動かず、円盤と③下も動かないことになる。



チャージでギアの歯がリンクしているのは先幕チャージギアまでだが、同時に後幕もチャージされる。

これは先幕チャージギアは、丸印の裏側あるピンが作用するため。



裏側の写真。このピンが後幕チャージギアを押して一緒に回す。

このピンは先幕ストッパーが係止するピンでもある。



先幕チャージギアのピンは後幕チャージギアの丸印の位置に来る。これにより先幕チャージギアが後幕チャージギアを押して同時にチャージされる。



高速秒時の仕組み

高速秒時の仕組みを説明する。

速度ダイヤルを回すと、7:高速カムのカム部分は回らないが、軸が回る。この軸は偏芯しており、カム部分が前後に移動する。



軸を回すとカムの前後位置が変わっているのが分かる。



先幕が走ると、カムは先幕チャージギアとリンクしているので一緒に回る。カムは回転して22:後幕ストッパーにぶつかり(「蹴る」という)、後幕をスタートさせる。

速度設定によってカムの前後位置が変わるので、カムが22を蹴るタイミングは、カムが22に近い場合は早く、遠い場合は遅くなる。

この仕組みで後幕がスタートするタイミングを変え、高速秒時を実現している。



スロー秒時と "B" の仕組み

スロー秒時は上部と底部の連携で成り立っている。速度ダイヤルを動かすと、その下にある6:スロー伝達レバーが動く。



速度ダイヤルの裏にはスローカムが固定されており、スロー伝達レバーはこれに沿って動いている。緑で示した部分は高速域、赤で示した部分はスロー域。

カムが外側に行くほどスロー秒時が遅くなる。"T" はカムが極端に外側にある。



6が左に行くほどスローは早く、右に行くほど遅くなる。

6はスローシャフトに固定されており、そのシャフトを通じて底部の部品も一緒に動かしている。



スローシャフトはB14:スロープレート(写真では見えづらい)に接続されており、スロー伝達レバーの動きをB14に伝える。

B14が動くと、接続されているB13:スロー調整プレートも一緒に動く。

B13にはB11:スロー槍と、B11の裏に隠れて写真ではあまり見えないB15:スローレバーが接続されている

B13が動くとB11とB15も動く。つまりは上部のスロー伝達レバーが動くと、B11とB15が動くことになる。

B11、B15は速い秒時では左に、遅い秒時では右方向に移動する。



B15の先端はスローガバナーのフォークにリンクしている。B15が前後に動こうとすると、スローガバナーの抵抗を受けてゆっくり動くことになる。B15の先端がフォークの奥に行くほど抵抗が強くなる。



写真はチャージ状態。

B1:ミラー制御ギアはB17:底部後幕軸ギアとリンクしており、レリーズで右方向に高速回転する。B1bの裏にはピンがあり、これも一緒に回転する。

B11:スロー槍はB1bの上側にあるため、レリーズ時にぶつかってB1の回転を邪魔する。B11はB1bに押されて矢印方向に移動するが、B11の裏側にB15:スローレバーが固定されており、B15はスローガバナーの力を受けている。そのためB1は高速回転できず、スローガバナーの力を受けならがゆっくりとB11を押して回転することになる。

そしてB11を押しのけた瞬間に一気に回転して後幕が走る。これがスロー秒時を作る仕組みである。高速秒時ではB11が左に移動しており、B1bとぶつからない。

最初にB1がゆっくり回転するので、後幕が走り出す前にも後幕は少しだけ進むことになる。



”T" のしくみはスロー秒時の調整時に説明した。

"B" はまた違った仕組み。8:速度ノブの下部の8a:V字突起がポイントになる。

7:高速カムは、その下にあるバネで上下するようになっている。

"B" 以外では、8aはAで示す軸の上の円周に乗り、7を押し下げる。この状態で、カム部分は後幕ストッパーの動作平面にあり、その回転で後幕ストッパーを蹴ることができる。

しかし写真の "B" では、8aが7の軸のV字の溝にはまっており、7がバネに押されて上に上がっている。するとカム部分が後幕ストッパーの動作平面から外れるため、カムが回転しても後幕ストッパーを蹴ることができなくなる。後幕を走らせるにはレリーズボタンを離すしかなくなる。

これが "B" の仕組みである。



先幕バウンス防止の仕組み

先幕バウンス防止の仕組みを説明する。後幕は底部の鎌形部品がブレーキを兼ねていたが、先幕はまた別の機構。写真はレリーズ位置。

先幕は走りきった衝撃で跳ね返り、フレーム内に顔を出してしまうことがある。

シャッターテスターによる計測時、後ろから見て左端辺りを計測した際に、露光が複数回ある場合はバウンスが発生していることになる。このバウンスを低減する仕組みがある。

B3:シンクロギアは巻取側先幕軸ギアにリンクしており、先幕の動きとともに右回りに高速回転する。爪B3aがB12:バウンス防止レバーを右に押して乗り越え、写真の位置まで回転する。この、乗り越える際の抵抗が先幕を減速するブレーキになっている。

B12には左方向の力がかかっており、B3aが通り過ぎるとすぐに元の位置に戻る。

先幕が走りきった衝撃で跳ね返えると、B3は左に逆回転しようとするが、B3aは元に位置に戻っているB12にぶつかってそれ以上は回転せず、バウンスを抑制する。

レリーズ位置でB3aとB12の隙間が少なすぎると、B12が元の位置に戻る前にB3が逆回転してしまう場合がある。


ミラー角度調整

最初の修理では分からなかったが、2回目に幕を貼り直す際にミラーの角度調整ネジがあるのに気付いた。ここに降りたミラーが当たって止まり、45度になるようになっている。試していないが、偏芯ワッシャーで角度調整できるらしい。



ネジには反対側の穴からアクセスできる。



レリーズ・チャージでの底部

参考までにレリーズ完了時、チャージ完了時の底部の状態を示す。


レリーズ完了時。


チャージ完了時。


スローガバナーの清掃

スローガバナーの洗浄を行う。カバーを外すためネジを②つ外す。



カバーを開けたところ。ベンジンにまるごと漬け込み、スローガバナーを何度か動かしてゴミや古い油を除去する。

その後、丸印の軸受(写真の裏側も)とアンクルの足にごく少量注油する。ジャパンホビーツールのラウナ#40をベンジンで5%まで希釈したものを使用した。


セルフタイマーの清掃


セルフタイマーを外す。矢印のネジを外してセルフタイマーからレリーズへの連動部品を外す。ワッシャー注意。


ネジを2つ外せばセルフタイマーユニットが外れる。ベンジンに漬けて何度か動かして洗浄し、ギア軸とアンクルの足に注油する。


接眼部の清掃

接眼部を清掃する。プラのプリズムカバーは矢印のバネ2本で固定されている。丸印で引っかかっているだけ。


ネジ2本を外すとプリズムユニットから接眼部が外れる。


接眼部はレンズと枠に分離する。その両方にモルトプレーンがあるので、除去清掃後、新しいものに張り替える。


革の張り替え

剥がれかけていたフロントの革を張り替える。革は反って固くなっており、再利用はできそうにない。

向かって左側は剥がす際に破いてしまったので、型紙から作成する。

まず、本体側に紙を貼り付ける両面テープを数ヶ所貼る。


そこに少し大きめの紙はを貼り付け、割り箸などで押して型をつける。紙はカレンダーなどのツルツルした破れにくいもの。


つけた型が崩れないようにゆっくり紙を剥がしたら、型どおりにカットする。カットしたら本体に当てる、を繰り返して微調整する。

小さい角丸は角丸パンチがあればベスト。カッターで切るのが難しい場合は、ハサミでなめらかに切ったほうがやりやすい。もしくはポンチを角にだけ押し当てて抜く。

なお、端の方の斜めの立ち上がりには革は貼らない。貼ろうとすると皺が寄ってしまう。


型紙ができたら、革シートの上に両面テープで型紙を張り、そのとおりにカットする。

後は革を両面テープかボンドで貼り付ければ完成。両面テープの場合は、予め革に両面テープを均一に貼り付けておき、両面テープごと革をカットすること。

ボディ前側の平らなところは問題ないが、ボディ横側の曲がっている場所は、時間が経つと革のテンションで接着が剥がれることがある。このような場合は接着剤「コニシ G103」を使うとよい。革とボディを強力に接着してくれる。剥がす際はエタノールやベンジンで剥がれる。「G17」や「Gクリヤー」はこの接着には向いていない。



右側の革はきれいにはがせたので、そのまま型紙として使う。あとは左側と同じ。



ゼンマイバネ破損の修理

組み立て中にゼンマイバネが折れた。特に無理な力を加えたわけではないので、金属疲労と思われる。

折れたのは矢印のバネ先端部分。ネジで丸印に固定されていた。



幸い折れたのが数ミリだけだったので、ミニルーターで新たに固定用の穴を開けて解決した。穴が中心からズレて不格好だが、おそらく問題はないだろう。



ミラーの交換

実用上問題はないのだが、ミラーが傷だらけなのが気になる。以前の所有者が拭いたのだろう。

ミラーはファインダーからはぼやけて見えるため、フォーカシングに影響はないらしいが、せっかく表面鏡を持っているので交換する。

この機種のミラー交換は簡単で、ミラー自体を奥側に押すと、ミラー押金具(1)ごと奥に押し込める(バネの力がかかっている)。指で押し込んだら、(2)に出来る隙間に爪を入れてミラーを浮かすと外せる。

このとき、ミラーの角で指を切らないよう注意。以前の修理者がミラーの角の処理をしていない場合がある。



外したところ。ミラーの実測サイズは厚み1.05mm、W30.59xH24.55mm。



ガラスカッターを使い、新しい1mm厚の表面鏡を30x25mmで切り出した。角は#240の耐水ペーパーで軽くヤスリがけしておいた。

取り付けは、取り外しのときと同じく、奥側の押さえ金具に引っ掛けながらにミラーを奥に押せばよい。

ミラーは新品になったが、特にファインダーが明るくなったりはしなかった。


ミラー受けクッションの交換


最初の修理では分からなかったが、2回目に幕を貼り直す際にミラーアップ時のミラー受けスポンジが劣化していることに気付いた。ネジx2を外して遮光板を外す。



残ったスポンジと接着剤をエタノールできれいに除去する。



新しいスポンジ(モルトプレーン)を接着する。H1.5W10D3。



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